第1回 IPOを目指す社長とは
※このコラムでは著者の経験と私見を交えて記載しているため、一つの実務的な視点として、こんなケースもあるのかという程度に大らかな気持ちでお読みください。
仕事柄、上場企業とIPO準備企業の社長とお会いする機会が多く、さまざまなお話を伺う中で、共通して感じることがあります。
上場企業等の社長に共通する最大の使命は、トップライン(売上)を伸ばし、利益を出し続けることです。
上場企業では当然のことですが、IPO準備企業の社長もこの使命に真剣に向き合っています。
むしろIPO準備企業においては、将来の上場審査を見据え、「持続的に成長できるビジネスモデルか」という観点がより強く求められるため必死に取り組んでいます。
一方、IPOをこれから検討する中小企業の社長は、売上と利益に一定の道筋が見え始めた頃から、次第に次のような欲求や問いが脳裏に浮かびます。
「一定の成果は出たが、これから更に、会社も自分も成長したい」
「M&Aに興味がある又はしたい」
「当社の知名度や信用を上げたい、優秀な人材も確保したい」
「会社としても、自分としても目標を明確にしたい」
「当社は、誰のために、何のために存在し続けるのか」
「従業員の目標はこれまで通りで良いのか」
「既存事業も新規事業も拡大したい」
「投資家のEXIT方法を決めたい」
「一般市場から資金調達をして、様々な投資をしたい」
「社長・筆頭株主として一定のキャピタルゲインは得たい」
「先代からの夢を実現したい」など
上記のようなことを社長がしばらく悩んだ末、上場することのメリット・デメリットも把握した上で、これらの前向きな解決策として「IPOを会社の目標」にします。
ここで重要なのは、IPOは当面の会社目標ではなく、「会社のあり方そのものを再定義する経営プロジェクト」であるという点です。
創業当初からIPOを意識する社長もおられますが、多くの社長はこのような欲求や課題の解決方法としてIPOを会社の目標として決定しています。
なお、ここで言う会社の目標とは、「5年以内にIPOを達成します」という抽象度ではなく、202X年X月に上場するという明確な目標を意味します。
この“期限の明確化”が、組織・人材・資金・ガバナンスのすべてを逆算で設計する起点になります。
期限の明確化が出来るには、社長一人ではほぼ不可能であり、相当な勉強時間や頼れるパートナーが必要になってきます。
期限の明確化をしたIPO準備では、社長が決断すべき以下のような重要事項があります。
- 会社の存続意義や数値計画の見直し(上場企業のような内容にアップデート)
- 取締役会、経営会議について、IPOに向けた内容にアップデート
- 取締役、執行役員を筆頭に役職員の意識統一(役員陣の意識レベルは重要)
- 取締役、執行役員とIPOに向けたビジョンとロードマップの策定・共有
- 資本政策の計画策定と実行
- 社長の権限移譲(実務の移譲はあっても、IPOのプロジェクトリーダーは社長)
- 会社が効率的に回り、かつ、拡大する仕組み作り(組織設計、評価システムなど)
- IPOに向けた組織作り(機関設計、拠点、部門、部門長などの構築・見直し)
- ハイクラスの採用や外注、未知の領域(社外役員、CFO、経理部長、常勤監査役など)
- IPOプロジェクトチームの組成(IPO準備室、社内+外注)
- 上記を全体的に相談できる人がいない(専門相談は出来ても、総合的な相談相手はいない)
これらは個別論点に見えますが、本質的には「経営・組織・ガバナンス・投資・ファイナンス・会計を一体で設計する」という難易度の高い経営戦略です。
そこから更に上場企業になるという高度な目標を達成するためには、売上・利益の業績を上げることについて、その方法と行動を「言語化、構造化、数値化、計画、分析、再現可能へ修正」することが求められます。
言い換えれば、社長のリーダーシップを発揮しつつ「属人的な経営」から「再現性のある経営」への転換です。
大きなチャレンジであるIPO。最短でも2年半以上、様々な理由により延期することも多く、その途中で息切れすることもあります。
実際には、売上・利益の業績(予算未達)が延期の理由として多いものの、「組織・人材・内部管理体制」などの内部管理体制の脆弱性でつまずくことも少なくありません。
晴れて上場達成したとしても、上場維持基準、企業価値向上への対応は続きます。
IPO準備を進める中で多くの社長が直面するのは、「上記の個別論点の専門家はいるが、経営全体を俯瞰しながら意思決定を支えてくれる存在がいない」という壁です。
IPOを達成した先輩経営者からお話を聞くことはあっても、現役の上場企業社長ではなかなか細かいところまでは時間的な制約があり範囲・視点や時間軸も限定的になります。
「経営・組織・ガバナンス・投資・ファイナンス・会計を一体で設計する」などこれらを一体として捉え、社長が適切な優先順位で前に進めていくためには、IPO全体像の知識・経験と経営陣をはじめ会社の中身を理解し、社長と伴走する経営戦略が不可欠になります。
最後に.IPOを目指すということは終わりのない挑戦にも聞こえますが、社長がIPOを会社の目標として明確に決意し、そこから経営戦略を伴いながら逆算思考で一歩ずつ正しく積み上げた行動は決して無駄になるものはなく、会社は筋肉質で強靭な組織へと成長していきます。
※本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の助言や判断を行うものではありません。実務への適用は、必ず専門家へご相談ください。