第4回 IPOを目指す社長がすべきこと10選
※このコラムでは著者の経験と私見を交えて記載しているため、一つの実務的な視点として、こんなケースもあるのかという程度に大らかな気持ちでお読みください。
IPO準備というと、証券会社や監査法人対応、経理体制、取締役会、規程類、内部管理体制など、専門的な論点が注目されます。
もちろん、それらは非常に重要ですが、IPOを目指す会社の社長が最も意識すべきことは、売上と利益という「業績を伸ばす」ことです。
まずは「20XX年X月にグロース上場を目指す」という期限を明確に決めます。
そしてこのスケジュール通りに内部管理体制を完璧に整えたとしても、会社の業績が伸びていなければ、資本市場からは評価されませんので、IPOは出来ないといえます。
IPO準備は、上場審査に対応できる組織作り・内部管理体制の構築だけが重要ではなく、業績を重視した「上場企業として成長し続ける会社」に変えていくことです。
著者が多くのIPO準備企業の社長を見てきた中でも、共通して失敗することがあります。今回はそれらを踏まえて「IPOを目指す社長がすべきこと10選」をお伝えしますので、ご自身がどのようにすべきかの参考にして頂ければ幸いです。 著者の結論は、1にも、2にも、3にも、業績を上げることですが、下記の通り概略を説明します。
IPO準備で最初に考えるべきことは、売上をどう伸ばすかです。
言わずもがなですが、IPOを目指すのであれば、会社には成長性が求められます。
- 既存事業をどう伸ばすのか
- 新しい顧客をどう獲得するのか
- 単価を上げるのか、販売数量を増やすのか
- オーガニック、インオーガニックの詳細な方針を決めているのか
このようにIPOを目指す社長は、上場企業の社長がやっているように売上を伸ばす道筋を明確にし、結果を出す必要があります。
これも良くある失敗事例ですが、売上だけでなく、利益をどう伸ばすかも重要です。
売上が伸びていても、利益が残らなければまったくと言っていいほど投資家から評価されません。
原価率、粗利率、人件費、広告費、外注費、研究開発費、固定費などを見直し、売上の成長が利益の成長につながる構造を作る必要があります。
上場企業と同じく、IPOを目指す会社は、「売上は伸びているが、利益は出ていない会社」ではいけません。
「売上も利益も伸びる会社」であることが求められます。
ディープテックやSaaSなど一部の業種で赤字上場もありますが、基本的には黒字で利益を上げ続けることが重要です。
IPOは、一時的な売上や利益ではなく、継続的に成長できることを求められます。
逆説的な言い方として、来期以降も同じように業績を獲得できると説明しにくい、継続性のない業績とされる事例は以下のようなものです。
- 大型案件がたまたま取れた
→特定年度だけ大口案件が入り、売上・利益が大きく伸びたケース - 特定顧客に依存している
→売上の多くを1社または数社に依存しており、その顧客の方針変更で業績が大きく変わるケース - 社長個人の営業力・人脈に依存している
→会社の営業体制ではなく、社長の関係性で案件を取っているケース - 一時的なブームや特需で伸びた
→コロナ需要、補助金、法改正、インバウンド、災害対応など、一時的な外部要因で伸びたケース - 特定商品・特定サービスに依存している
→売上の大半が1つの商品・サービスに集中しており、次の成長ドライバーが見えないケース - 値上げや価格改定だけで利益が増えた
→成長というより、既存顧客への値上げで一時的に利益率が改善したケース - 費用を一時的に抑えて利益が出ている
→採用停止、広告費削減、役員報酬減額、管理部門の調整で、見かけ上の利益が出ているケース - 期末の押し込み販売・前倒し受注がある
→来期分の受注や販売を今期に寄せて、売上を大きく見せているケース - M&Aで売上だけが増えた
→買収によって売上規模は大きくなったが、PMIやシナジー、次のM&Aの再現性が説明できないケース - 会計処理・収益認識で見た目が良くなっている
→一括売上計上、計上時期の前倒し、総額・純額の整理不足などで、実態より業績が良く見えているケース
このような状態では、資本市場に対して安心感を与えることはできません。
誰が見ても、なぜ売上が伸びているのか、なぜ利益が出ているのかを説明できて、それは来期以降も継続して成長していける状態であることが求められます。
売上と利益を伸ばすためには、次のような成長戦略が必要です。
- 既存事業を深掘り・拡大するのか
- 新規事業を立ち上げるのか
- M&Aを活用するのか
- 地方展開、海外展開、業界特化を進めるのか
IPOを目指す社長は、「営業努力で伸びています」ではなく、「経営戦略で成長しています」と説明できなければなりません。点と点ではなく、線として、面としての成長です。
例えば、コンサル会社へ外注して作った社長・役員陣の魂がこもっていない成長戦略では、実態が伴っていないため意味を成し得ません。
経営戦略を伴いながら、上流から落とし込んだものが、微動だにしない成長戦略です。
この経営戦略の伴う成長戦略は、証券会社や投資家に説明するためだけのものではありません。
株主・投資家、取締役会、経営会議のためであり、日々の会社の進む方向を決めるための軸になります。
なお、経営戦略を伴う成長戦略は高度な内容ですので、専門家へ相談しながら作成することをお勧めします。
IPOといっても、どの市場に上場するのかという選択肢は一つではありません。
グロース市場、スタンダード市場、プライム市場、東京プロマーケット、地方証券取引所など、会社の規模、成長性、株主構成、内部管理体制によって、現実的な選択肢は変わります。
- 「上場したい市場」ありきで進めるのか
- 「身の丈に応じた市場」を目指すのか
- 「段階的・ステップアップ上場」を目指すのか
- プロマーケット市場で、まずは会社の信用力を高めることを優先するのか
市場選択は、単なる上場先の選択ではなく、会社の成長戦略そのものです。
既にTPM上場しておりグロース市場を目指している、TPMやグロース・スタンダード市場を目指している、これからIPOを検討開始するなど、現在いずれの状態であっても外部プロフェッショナルや上場した先輩経営者など幅広に相談し、自社の成長戦略を強固にしてから目指すべき市場を決めていくことが成功確率を高めます。
IPO準備では、資本政策も非常に重要です。
- 株主の構成をどうあるべきか、誰に何%か
- VCから資金調達をするのか、何%か
- 社長は上場時にどれだけ株式保有すべきか
- 役員や従業員へのストックオプションを誰に何%付与するのか
- 従業員持ち株会は作るのか、何%に設定するのか
- 上場時にどの程度の公募・売出しを行うのか
このような資本政策は、一度実行すると後戻りが99%出来ない重要な論点です。
社長の持株比率が下がりすぎると、経営の自由度や上場後の支配力にも影響します。
一方で、資金調達を全く行わなければ、成長投資の機会を逃す可能性もあります。
だからこそ、資本政策は外部プロフェッショナルや上場した先輩経営者など幅広く相談しながら、社長自身が理解を深めてから果断な決断をしてください。
IPO準備では、取締役会のあり方も変える必要があります。
私が知る限り非上場会社では、社長が実質的にすべてを決め、取締役会は形式的に運営されていることがほとんどです。
しかし、IPOを目指す会社では、取締役会はこれまで通りの形式的な内容や議事録だけを準備することや単なる決議の場ではいけません。
IPO準備会社の取締役会は、経営戦略、業績、リスク、内部管理体制を高度な内容で議論し、株式会社の経営方針や重要事項の決定および業務執行の監督を行う機関決断をする場になるよう変えていきます。
取締役会のイメージとしては以下のようなものがあります。
- 取締役会規程等に基づき決議・報告を慎重に審議して意見を出し合い進めているのか
- 月次業績はどう推移しているのか
- 予算との差異はなぜ発生したのか
- 重要な投資や採用は合理的か。実行の是非を討議し採決する
- 事業上のリスクを網羅して、これらにどう適切に対応するのか
- 成長戦略の高度な検証・修正・決議と以降の報告と分析と改善協議、など
こうした経営の本質を突く論点を取締役会で真剣に議論し、会社として意思決定する体制を作る必要があります。
取締役会を高度に機能させることは、IPO審査でも求められますが、この取締役会の進化は社長の意思決定を強くし、会社の経営レベルを引き上げるためにも重要です。
社長としては、取締役会と経営会議も含めて、まずはどこから手をつけたら良いのか分からないことも多いので、これも経験豊富な外部プロフェッショナルや公開引受部、Jアドバイザーなどに相談しながら進めていきます。
IPO準備では、内部管理体制について構築・強靭化することが必須とされます。
経理、財務、人事、労務、法務、総務、情報システムなど、会社全般が相互にけん制すること、このような会社を支える機能が弱いと、IPOに関係なく早晩成長にブレーキがかかります。
著者の経験では、急激に売上が伸びている会社ほど、次のような管理体制の遅れが目立ちます。
- 契約書の作成能力、社内リーガルチェックの未熟さ、契約書管理が不十分
- 労務管理が未熟
- 月次決算が遅い
- 予算と実績の管理ができていない、レベルが低い
- 権限や承認ルールが曖昧
- 経理部の処理能力と報告資料のレベルが低い
- 月次報告書、管理会計も財務会計も、上場企業の水準と大きく乖離
このような未熟な状態では、上場企業になることはできません。
管理部門は、単なるコスト部門ではありません。
IPOするためには内部管理体制の構築・強化は絶対条件ですし、会社の成長を支える重要なインフラになりますので、採用や外注に積極的な投資をしてください。
IPO準備では、CFOや経理責任者の採用・交代も大きな分岐点になります。
通常の経理を回せる人と、IPO準備を進められる人は必ずしも同じではありません。
監査法人対応、証券会社対応、月次決算の早期化、予算実績の高度な管理、開示を見据えた体制整備など、IPO準備では求められる役割が大きく変わりますので、既存メンバーではCFOや経理部長として責任者になれることは不可能に近いため、新規で採用するか外部のプロに委託することが必要です。
なお、CFOと経理部長について社長としての採用スタンスは、「今の会社に足りない人」ではなく、「上場会社≒時価総額100億円になるために必要な人」を採用する意識が重要です。
給与で例えると、経理部長候補40万やCFO候補70万の採用ではなく、経理部長候補60万やCFO候補100万円の採用です。
多くの社長を見てきましたが、現状の社内水準の給与に見合うことを重視し、結果的にそこそこの人材をCFOと経理部長に採用や登用をしたことで、3年以上の時間をかけて大きく失敗しているケースが本当によくあります。
CFOと経理部長は外注も活用しながら優秀な人材を登用し、能力や企業ステージ応じて上位互換へ交代することが本当に重要です。
時価総額100億円以上の会社のCFOや経理部長は、投資銀行出身や公認会計士レベルの人が必要だという認識が良いと言えます。
IPO準備は、上場することが目的・ゴールではありません。
IPOを目指す過程で、会社の成長戦略を明確にし、組織を整え、人材を採用し、業績を上げ続け、管理体制を強くし、取締役会や経営会議を高度化させて有効に機能させます。
その結果として、会社は上場企業として上場後も成長できる体制に近づいていきます。
つまりIPO準備とは、ついつい言われたとおりに対応しますが、証券会社や監査法人に言われたことをこなす作業ではなく、会社を成長企業に変えていく主体性を持つべき取り組みです。
そして、その中心にいるべきなのは、CFOや管理部門ではなく社長です。
多くのIPO準備企業の社長とお会いしてきましたが、社長がIPOを経営戦略として捉え、自ら学び会社を変えていく覚悟を持てるかどうか。
社長が誰よりも学ぶこと、プロジェクト・リーダーとして全てを把握し推進すること、そうすることでIPO準備の成否が表れます。
YFAFでは、IPOを目指す社長に対して、資本市場から評価される会社づくり、成長戦略、内部管理体制、取締役会運営などを含めて支援しています。
IPO準備を始める前に、自社に何が足りないのかを整理したい場合は、ぜひ一度ご相談ください。
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の助言や判断を行うものではありません。実務への適用は、必ず専門家へご相談ください。また本サイトの記事・写真・イラスト等の著作権は、株式会社YFAFに帰属します。無断での転載、販売、放送、公衆送信(SNSへの転載、まとめサイトへの引用等)は禁止します。