第3回 なぜ今、TPM上場が急増しているのか
※このコラムでは著者の経験と私見を交えて記載しているため、一つの実務的な視点として、こんなケースもあるのかという程度に大らかな気持ちでお読みください。
TPM(東京プロマーケット)は2009年に開設されたプロ投資家向けの市場です。
一般市場のような資金調達や株式の流動性が見込みにくいため、2019年までは年間一桁の新規上場数でしたが、近年の新規上場数は年間約50社のペースで推移しています。

この1〜2年、IPO準備の現場でも「まずはTPM上場を目指す」という言葉をよく耳にするようになりました。この背景には、IPO環境そのものの構造変化があります。
なお、これまでに約220社がTPMに上場し、そのうち17社(約8%)が一般市場へ上場、約40社(約18%)が上場廃止しています。したがって、TPMに上場しても、一般市場へのステップアップが当然に見込めるわけではありません。
TPMを目指す企業が急増した最大の理由は明確です。
- 東証のグロース上場維持基準を見据えた時価総額100億円
- 主幹事証券会社による新規引受100〜300億円レンジ
もちろん他の理由もありますが、大きくはこの2点です。
IPOを目指す社長や関係者の間でも、「グロース市場を目指すのであれば、時価総額100億円が一つの目線になる」という認識が広がりました。
しかし、時価総額100億円に到達するには、一定の利益水準と成長期待が必要です。
たとえばPER20倍で評価されたとしても、当期純利益5億円が必要です。PER10倍であれば、当期純利益10億円が必要になります。
この水準に到達するまで時間を要する企業は少なくありません。そのため、「いったんTPMに上場し、数年後に企業価値を高めたうえで、グロース市場やスタンダード市場を目指す」という判断が増えています。これは、多くの企業の実態に合わせた現実的な対応といえます。
TPM上場時の資金調達はほぼ見込めないのが実態です。そのため、TPMに上場する意味は、TPM上場によって得られるメリットを活用しながら、企業価値を高め、一般市場へのステップアップを目指す期間をつくることにあると考えられます。
【TPM上場の主なメリット】
- 東証に上場しているという信用力とブランド力の向上(名刺にロゴが入れれる等)
- 採用競争力の強化
- 金融機関や取引先との関係強化
- 社内体制の強化・ガバナンス向上
- オーナー経営の維持
TPM上場後のステップアップ先としては、主に次の市場が考えられます。
- 東証グロース市場/スタンダード市場
- 地方証券取引所(名古屋、福岡、札幌)
TPMは、売上や利益、株主数などの形式基準(数値基準)が設けられていないプロ投資家向け市場です。上場審査では、J-Adviserによる実質審査に基づき、上場適格性(コーポレート・ガバナンスや内部管理体制)が確認されます。監査期間は最近1年間(通常2年間)でよく、比較的迅速な上場が可能です。
グロース市場などを目指す場合は、業績予算達成が出来ずに延期することが多い印象ですが、その点この形式基準(数値基準)がないことは一般市場に比べて大きな違いがあります。もちろん、実質基準では一定水準の体制整備は求められますが、ガバナンスや内部管理体制については、企業規模や成熟度に応じた整備が求められるため、一般市場に比べると許容範囲が広いと言えます。
このような背景から、まずはTPMへ上場し、その後に一般市場を目指す企業が増えています。
一方で、当初はTPMから一般市場へのステップアップを目指していたにもかかわらず、TPM上場後に業績が伸びず、内部管理体制の強化も進まない企業も少なくありません。
その結果、TPM上場そのものが「上場ゴール」になってしまうケースがあります。
その理由としては、次のような点が挙げられます。
- TPM上場後の成長戦略が弱い
- 「20XX年X月にグロース上場を目指す」という期限が明確になっていない
- 業績予算のためのCOO、営業部長など、営業人材が成長ステージに追い付いていない
- CFOや経理部長など、管理部門の人材が成長ステージに追い付いていない
- 管理部門の役割が開示対応の最低限に留まっている
- 企業として成長戦略と人材投資の一体設計が弱い
- 上記のような全ての課題を横串で解決すべき経営戦略を話せる相談相手がいない
このような状態が続くと、「TPMに上場したものの、その後の成長が進まない」という結果になります。
既にTPMに上場している企業が、一般市場へステップアップするためには、次のような論点を整理する必要があります。
- 目標とする市場を決める
- 一般市場への上場スケジュールを明確に決める
- 中期経営計画を見直す
- 事業投資、人材投資、設備投資、M&Aなどの詳細を決める「何に、いつ、いくら」
- 取締役会や経営会議の運営を見直し、目標に見合う外部専門家の意見も取り入れる
- 上記の全ての課題について経営戦略を伴いながら進める
これらは、必ずしも順番どおりに進める必要はありません。ただし、TPM上場後に一般市場を目指すのであれば、早い段階で全体像を設計しておくことが重要です。
これからTPMを目指す企業も同じです。
- TPM上場の目的と上場スケジュールを決める
- 次に目指す市場
- 一般市場への上場スケジュールを決める
- 一般市場へのIPO時点で必要となる時価総額や利益水準
- それらを支える体制(内部人材と外部専門家の活用)
繰り返しですが、明確な期限からの逆算による経営戦略として行い、点と点の集合ではなく、線となり面となるように実行しなければいけません。
TPM上場が増えているのは、IPO環境の変化に対する合理的な対応です。
重要なのは、「どこに上場するか」ではなく、「どのように成長するか」です。
TPM上場は、あくまでも企業価値向上の手段であり、その価値を決めるのはTPM上場後の期限の明確な目標設定と経営戦略です。
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