第2回 CFOの採用・交代
※このコラムでは著者の経験と私見を交えて記載しているため、一つの実務的な視点として、こんなケースもあるのかという程度に大らかな気持ちでお読みください。
IPO準備において、他社事例を含むさまざまな情報収集を続けることは非常に重要です。
その中でも、IPO準備企業の多くが最初につまずくのが、「CFOの採用と交代」です。
CFO(最高財務責任者)は、上場を目指すうえで極めて重要な存在です。社長に次ぐ重要な存在と言っても過言ではありません。
本コラムでは、他社事例も踏まえながら、どのような考え方でCFO採用に向き合うべきかを整理します。
日本国中に上場企業3,800社(TPM除く)、IPO準備企業2,000社(不詳)など7,000名前後のCFOがいます。この中には今までも、これからも肩書だけの“CFO”や“管理本部長”が多いのは事実です。
このような状況を理解した上で、IPO準備企業が登用すべき本物の“優秀なCFO”とは、例えば以下のような人材です。
- 投資銀行出身者
- 一般市場(グロース・スタンダード)でのIPO実務責任経験者
- CFO経験者(IPO準備企業を含む※CFOまがいが多いので要注意)
- 公認会計士であり、IPO実務とマネジメントの双方に精通している人材
さらに重要なのは、コミュニケーション能力です。
求められるのは、前職までの優れた実績に加えて、高いコミュニケーション能力を備えたCFOです。
このようなCFOは、社長と並んで資本市場と対話できる経営人材であり、管理部門の実務にもマネジメントにも強い、“CFO兼管理本部長”のような存在です。
これまで数百人を超えるCFOとお会いしてきましたが、このような優秀な人材は感覚的には5~10%程度と「とても少ない」印象です。転職市場に出てくることも、ほとんどありません。
IPO準備企業がCFOの求人を行う際によくする報酬設計は、以下のようなものです。
現状
取締役社長:2,000万円
取締役:1,200万円
この前提でのCFO求人、
CFO候補
年収800万~1,200万円(実際には800万円程度で内定通知)
という求人を出します。
一見すると、現状の役員報酬水準と整合しているように見えます。
しかし、これはハイクラス転職市場価値との完全なミスマッチです。
なぜなら、優秀なCFO候補は、この報酬水準にマッチしていないだけでなく、私独自の言葉でいうと次のような“非報酬条件”を総合的に見て転職先を評価するからです。
- 事業の成長性
- 実績(PL・BS)
- ビジネスモデル
- 事業計画のリアリティ
- 社長の知性・熱量
- 経営陣のレベル
- 自身の裁量権
- ストックオプション(自身の持分割合を含む)
- IPO達成の蓋然性
- 主幹事証券、監査法人などIPO準備の進捗状況
この例では、提示年収が市場価値と比べて十分ではないため、CFO候補者からすると、“リスクとリターンの総合評価”の中で、転職先として選ぶかどうかをシビアに判断することになります。
また、年収の不足をSO(ストックオプション)で補おうとする考え方もあります。
しかし、入社後のどのタイミングで何%付与されるのかが曖昧だったり、SO付与やキャピタルゲインの実現可能性が低かったり、そもそもIPO達成可能性が低いと見られる状態では、優秀な相手には見抜かれてしまいます。そうなると、SOの提示もほとんど効果を持ちません。
このような、実際によくある募集条件を出した結果、多くの社長がどうするかというと、
800万円前後の内定通知で来てくれる“そこそこ優秀風”な人材を採用しています。
最高峰に難しいIPOを目指していること、時価総額100億円を目指していること、そのためのキーマンでNo2の存在であるCFOを採用することが、まるで高いお店にはいっさい目もくれず、安くて美味しいお店だけから探すことに必死で、スケールの小さい採用をします。
では、この条件で採用した人材を実質的にCFO(IPO室長、管理部長、経理財務部長など名称は問わない)として登用したままIPO準備を進めると、どうなるのでしょうか。それが次の通りです。
- IPOや上場企業の要求水準に満たない内部管理体制を作ってしまう
- 企業として、自分たちが向かっている資本市場への理解が浅いままになる
- 対処療法として外部専門家に依存する
- ただし、司令塔であるCFOが非力なため、外部専門家を有効活用できない
- 社内に高度なノウハウが蓄積されない
- 時価総額100億円に見合う優秀な経理部長やキーマンが退職
- 経理部長や人事総務部長などの優秀な人材採用・育成が失敗(見透かされる・育成も出来ない)
- 結果としてIPOが遅れる、あるいは実質的に難しくなる
- 時価総額100億円は当然無理
長い年月を掛けて静かに絶望的な状況を構築し、気づいた時にはIPOは延期されて、時価総額100億円も遠のいていきます。
例えばTPMから一般市場を目指す会社でもまったく同様で、CFOという社長と同じく重要な人物を採用・登用することなのに、新規採用による交代など経営戦略を立てずに進めていくと上記のよう結果を迎えています。私はこのような事例をとても多く見てきました。
では、どうすればよいのでしょうか。
結論はシンプルです。
冒頭で述べたような“優秀な人材をCFO候補として採用する”ことに、ギアを3段階上げてもっと真剣に取り組むことです。
一つの目安としては、以下のような条件提示にします。
現状、上記同額
CFO候補
年収1,200万~1,500万円+ストックオプション(実際には1,200万円程度で内定通知)
この条件であれば、ハイクラス転職市場に合致し、優秀なCFO候補に「検討対象」として見てもらえる土台に乗ります。
そこから初めて、 “非報酬条件”で勝負することになります。
- 事業の成長性
- 実績(PL・BS)
- ビジネスモデル
- 事業計画のリアリティ
- 社長の知性・熱量
- 経営陣のレベル
- 自身の裁量権
- ストックオプション(自身の持分割合を含む)
- IPO達成の蓋然性
- 主幹事証券、監査法人などIPO準備の進捗状況
つまり、優秀なCFO採用は、ハイクラス転職市場での価値に従った報酬を提示したうえで初めてスタートラインに立てる、ということです。
優秀なCFOを採用する際は、次のようなプロセスをお勧めします。
人材紹介会社や知人や関連集団からのリファラルなど、さまざまな手段で有力候補と出会った場合、形式的な選考だけで終わらせず以下の行動をとります。
- カジュアル面談
- 会食(ゴルフも可)
- ボードメンバーを含む対話
- 面接
これらを、社長自らがメールや電話など率先して主体的に連絡をとると効果的です。
社長からすると、まだ相手を十分に信用できない段階かもしれません。
しかし、優秀なCFO候補に対して必要なのは「採用」手続きではなく、ぜひわが社に来て欲しいという「口説き」の対応です。
上記の報酬水準や非報酬条件を整えたうえで、社長自身が三顧の礼のスタンスで、時間をかけて丁寧に口説くべきです。
履歴書には表れませんが、相手は“超レアキャラ”です。慎重に、丁寧に、誠意を持ってお会いしましょう。
2.多くの企業がやってしまう「典型的な失敗」で説明の通り、多くの社長が採用してしまうのは、“そこそこ優秀風”なCFO人材です。
その結果、実務上の対処として実際によくあるのが、次のようなケースです。
- フェーズごとにCFOを交代する
- 上場直前で、より優秀なCFOを採用する
これは決して珍しいことではありません。
むしろ、このCFO交代の決断ができない企業ほど、万年N-1を繰り返している印象があります。
したがって、社長にとって重要なのは次のスタンスです。
- 今のフェーズに合うCFO人材を入れる
- 常に上位互換となる候補者を探し続ける(重要)
- 必要であれば、交代も実行する(最重要)
CFOは一度採用したら終わりではなく、IPO達成までや時価総額100億円までの逆算からその目標のステージに応じた最適な人材がいるべきポジションです。
社長が本気でIPOを達成したいのであれば、“そこそこ優秀風なCFO”が居続けてよいポジションではありません。120%真の実力者たる優秀なCFOが居るべきです。
CFO交代を行うと、社内の混乱、監査法人、主幹事証券などへの影響は大きいこともあります。それでもIPOを達成するためであり、時価総額100億円を本気で達成させるためには交代させてからも本稼働するまでの時間がかかるので早めに英断を行ってください。今すぐ見つからないのであれば、レアキャラのいる業務委託先へ依頼することをお勧めします。
社長がIPOを本気で目指すのであれば、時価総額100億円を達成したいのであれば、どうか絶対に「優秀なCFOを採用」してください。そのためには「転職市場を理解し、優秀なCFOの市場価値に見合う条件を提示し、非報酬条件も整えたうえで、必ず取りにいく」という社長の覚悟と必死の行動しかありません。
現実には、この相場観と危機感を持って適切に採用活動をしたとしても、ご縁やタイミングが合わず、数か月、1年、数年と採用できない苦労が続きます。
だからこそ、IPO準備における優秀なCFOの採用・交代は、外注の活用も含め、逆算スケジュールに基づく経営戦略として進めることが重要です。
優秀なCFOが採用できたあかつきには、巨大な歯車が動きだすことを実感されます。
そしてIPOという大きな目標を達成し、更にはその企業が日本中そして世界にも羽ばたいて欲しいと心から願っています。
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